2018年4月27日金曜日

我妻俊樹の短歌と川柳

小津夜景のブログ「フラワーズ・カンフー」(4月23日)に『川柳スパイラル』2号の我妻俊樹のゲスト作品について言及がある。小津はこんなふうに書いている。

〈『川柳スパイラル2』をめくったら我妻俊樹の名がありました。我妻俊樹をはじめて知ったのは歌葉新人賞。あの賞では雪舟えま、謎彦、宇都宮敦、フラワーしげる、斉藤斎藤、笹井宏之、永井祐ほか、おもしろい歌人をいっぱい知ったけれど、我妻さんもその一人。〉

そこで『短歌ヴァーサス』を引っ張り出してきて、「歌葉新人賞」の掲載されているページを読み直してみた。我妻俊樹は毎回候補作品に取り上げられている。たとえば第4回歌葉新人賞は笹井宏之だったが、その発表号(『短歌ヴァーサス』10号、2006年12月)には候補作品として我妻の「水の泡たち」が掲載されている。こんな歌である。

指輪から抜けない指で二階から二階へ鳩をとばしあう海
どこまでが駅前なのか徒歩でゆくふたりでたぶん住まない土地を
森の樹にぶつけた車乗り捨ててぼくらはむしろ賑やかになる
「先生、吉田くんが風船です」椅子の背中にむすばれている
(運転を見合わせています)散らかったドレスの中に人がいるのだ

ちなみに『短歌ヴァーサス』10号の「川柳ヴァーサス」の欄で、私は「着信アリ」というタイトルのもとに各地の現代川柳作品を紹介している。
歌葉新人賞で我妻の作品を読んだ人は多いようだ。
『率』10号(2016年5月)は我妻俊樹誌上歌集『足の踏み場、象の墓場』を掲載している。その序文で瀬戸夏子は次のように書いている。

〈私が我妻俊樹の歌の読者になったのは歌葉新人賞のころだから、おそらく十年ほど前になるだろう。つまり、私は十年間、待ったのだ。〉

この誌上歌集については、以前この時評でも紹介したことがある(「川柳人から見た我妻俊樹」2016年5月20日)。
5月5日、「川柳スパイラル東京句会」で我妻俊樹と瀬戸夏子の公開対談が実現する。それにあわせて我妻の川柳作品100句が『眩しすぎる星を減らしてくれ』という冊子になった。当日の参加者には進呈されるが、その中から何句か紹介しておきたい。

沿線のところどころにある気絶    我妻俊樹
くす玉のあるところまで引き返す
いいんだよ十二時ばかり知らせても
おにいさん絶滅前に光ろうか
権力の話を聞きに夏草へ

小津夜景は前掲のブログで我妻の川柳を挙げたあと、こんなふうに書いている。

〈 「先生、吉田君が風船です」椅子の背中にむすばれている

といった詠風を眺めると、ずいぶん川柳的なもののように感じられたりもします。そんなわけで『川柳スパイラル2』からも一句。とっても短歌的なのだけれど、でも川柳にしてベターだったと言えるような仕上がり。

郵便制度のあんなところにも鳥が  〉

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