2017年7月7日金曜日

堤防の裂目へ野菊‐山河舞句の川柳

「杜人」254号(2017夏)は今年三月に亡くなった同誌の発行人「山河舞句追悼号」である。
舞句(マイク)という号からわかるように彼はプロのアナウンサーであり、赴任地の熊本で肥後狂句に興味をもち、松江で川柳をはじめたという。柳歴40年。1996年「杜人」同人、2007年(213号)から発行人。

私は山河とは二度会ったことがある。
一度目は「バックストロークin仙台」(2007年5月)のときだった。総合司会・山河舞句。
シンポジウムのテーマは「川柳にあらわれる『虚』について」で、司会・小池正博、パネラーは渡辺誠一郎・Sin・石田柊馬・樋口由紀子。
仙台開催ということで「小熊座」の渡辺誠一郎を招いて話を聞くことができた。パネラーが挙げた「虚の句5句選」に対して会場から渡辺隆夫が「川柳はこの程度の句で虚なのか。もっとすごいところへ行かないと虚とは言えないのではないか」と発言したのが印象に残っている。
二度目は「大友逸星・添田星人追悼句会」(2012年3月)のとき。
食事をしながらの句会で、山河舞句は穏やかな口調で開会挨拶をした。
この句会のことは本ブログでも紹介したことがある(2012年3月16日)。

「杜人」254号には山河舞句作品が掲載されている。
舞句には刊行された句集はなかったが、手作りの句集『無人駅の伝言板』『天に矢を』があり、あと「川柳大学合同句集」などから広瀬ちえみが抄出している。

残酷な嘘を知ってるボールペン
人間を修正液が消していく
二階から見送る支店長の首
海を見たくてタイムカードを押している
百枚の名刺を飛ばしさようなら
スサノオに遅れし人を父という
火葬場の前の花屋も春になる
堤防の裂目へ野菊また野菊
寝転んだ途端に蝿がやってくる
人文字のひとり反旗を翻す

『無人駅の伝言板』(平成5年7月)から。
最初の五句は組織の中に生きるサラリーマンの心情がうかがえて共感できる。
あとの五句は更に深まり、軽みのなかに川柳の眼が発揮されている。

ふんわりと新芽が覆う地雷原
万緑に伏せれば兵は皆みどり
エルサレム月は三方から見える
サラ金の看板邪魔だなあ月よ
森林浴あなたは腐りすぎている

『天に矢を』(平成14年~16年作品)から。
時事吟が含まれているが、社会的な題材を扱って常套的表現に陥らないのは至難のことだ。軽みと批評性を両立させているのは作者の手腕だろう。

怒怒怒怒怒 怒怒怒怒怒怒怒 怒怒と海

パソコンでは出ないが、中七の「怒」は七つとも反転して表記されている。
第二回高田寄生木賞大賞作品。東日本大震災を詠んだ句の中でも著名なもので、舞句の作品の中ではまずこれが思い浮かぶ。

水がめの底が乾いたので帰る
類似品注意と類似品が言う
うつ伏せを仰向けにして確かめる
銃を持つと約束を守らない
背後から国家に肩を叩かれる
こけしの首をきゅっと鳴らして春にする

「杜人」誌から広瀬ちえみが抄出した作品から。
「こけしの首をきゅっと鳴らして春にする」は今年の四月句会の高点句だそうだ。舞句の最後の作品なのだろう。
こうして改めて山河舞句の作品を読んでみると、生前に句集が出なかったことが惜しまれる。まとまった数の作品を並べることではじめて見えてくるものがあり、句の特質や多様性などが一冊の句集として読者に届けられるからだ。
「杜人」の発行人は都築裕孝へ。
今年11月4日、仙台ガーデンパレスで開催される「川柳杜人」創刊70周年記念句会は、同時に山河舞句追悼句会ということになる。

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