2016年2月5日金曜日

久保田紺の五冊の句集

私の手元に久保田紺の五冊の句集がある。
一冊目は『銀色の楽園』(2008年9月、あざみエージェント)。100句収録。

ありがとうと言ったらさようならになる
ちいさくてかわいいそしておそろしい
背中からなにか出ようとしています
呼びに来たひとにふわりとついてゆく

これとは別に題名のない句集が三冊ある。
それぞれ表紙が青色・赤色・白色でタイトル・あとがきなど一切なく、句だけが収録されている。私の調べたところでは、青色には2005年以後の句、赤色には2007年10月~2008年5月の句、白色には2009年までの句がそれぞれ収録されている。句集ができた経緯については、「杜人」228号の「ここからの景色」に久保田自身の文章が掲載されている。

この次は貴方を産みたいと思う
狂わされ私正しく動き出す
濡れている 私の左君の右
攻めてくる無垢なうさぎの顔をして
笑ってしまった 許していないのに
眠れない夜は羊を丸刈りに  (以上、青色から)

渡したいものがあるのとおびきだす
あなただけが好きよあなたといるときは
マニュアルを読んでるうちに故障する
古本の同じところで泣いている
歩く鳥のほうに分類されている
いなくなったらいなくなったでこわいひと
さあ歩きましょうねと首輪つけられる (以上、赤色から)

錆びてゆく 雨に打たれるのが好きで
おさかなをたべているのにおよげない
会わないように会わないように帰りつく
お取り寄せしたら知らない人が来る
脱ぐまでは正義の味方だった人
散りましょう うしろに列ができている (以上、白色から)

最後に『大阪のかたち』(2015年5月、川柳カード叢書)。
久保田紺と「川柳カード」との関係について、句集の「あとがき」には次のように書かれている。
〈長年住み慣れた家を出て辿り着いた所は、「川柳カード大会」会場から徒歩3分のところ。それがどんなに幸運なことか、私はまだ知りませんでした。すべてのものの手放し方ばかり考えていた私は、思いがけず新しい場所を得、仲間と出会いました〉
こうして久保田紺は「川柳カード」大会や合評会に参加するようになり、そのつながりから「川柳・北田辺」にも毎回参加するようになった。

銅像になっても笛を吹いている
キリンでいるキリン閉園時間まで
うつくしいとこにいたはったらええわ
海はまだか海に出たくはないけれど
あいされていたのかな背中に付箋
着ぐるみの中では笑わなくていい
鉄人に勝とう大きなパー出して
いけませんそこに触ると泣きますよ

私は久保田紺の恋句が好きだ。句集の解説には「案外といっては語弊があるが、久保田紺には恋句が多い」と書いて、彼女には叱られたけれど。
私は40代の彼女を知らない。たぶん久保田紺にはいろいろな面があって、私の知っているのはほんの一面にすぎないだろう。ただの「いい人」であったら、こんな句が書けるはずもない。
私たちは日常生活の些事に追われて暮らしているが、自分の「いのち」に向き合ったときに、どうでもいいこととそうでないことはきっぱりと分けられる。どうでもいいことは、はっきりどうでもいいのだ。私が彼女から学んだのは、そういうことである。
「川柳性」とは何か。ひとことで言うのはむつかしいが、久保田紺の作品にはまぎれもない川柳性が感じられる。すぐれた川柳人だった。

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