2015年9月18日金曜日

第三回川柳カード大会

― 偉大なる天体よ。もしあなたの光を浴びる者たちがいなかったら、あなたははたして幸福といえるだろうか。この十年というもの、あなたは私の洞穴をさしてのぼって来てくれた。もし私と私の鷲と蛇とがそこにいなかったら、あなたは自分の光にも、この道すじにも飽きてしまったことだろう。  (「ツァラトゥストラ」)

9月12日、大阪上本町の「たかつガーデン」で「第三回川柳カード大会」が開催された。第一回が2012年、第二回が2013年開催で、昨年は見送られたので、二年ぶりの開催となる。第一部は対談、第二部は句会という形式はこれまでと変わらず、全国から94名の川柳人が集まった。
今年の対談ゲストには柳本々々を迎えたので、彼の話を聞きたくて参加された方も多いことだろう。対談のタイトルは「現代川柳の可能性」。
柳本と会うのは今回で五回目となる。昨年12月の「川柳カード」合評会が最初で、今年5月の「現代川柳ヒストリア+川柳フリマ」が二回目、8月の「とととと展」に彼の話を聞きに行き、東京でも一度会って話をした。
細部まで詰めたわけではないが、対談内容の腹案はできていたし、柳本から詳しいメールも届いていたので、進行に不安はなかった。対談はその場がおもしろければいいようなものだが、雑誌の編集の立場からすると、のちに誌面に反映させたときに、絵になるというか、読みものとしてインパクトのある話がほしい。ライブ感覚と活字で読んだときのおもしろさという矛盾する要請をしたのだが、さすがに柳本の話は充実したものだった。
対談とは言いながら、私はインタビュアーに徹するつもりだったので、質問する役割に回った。また、柳本は絵川柳なども書いているので、パワーポイントを使って映像を紹介することにつとめた。どこまで成功したか分からないが、詳しいことは発表誌の「川柳カード」10号(11月25日発行予定)をご覧いただきたい。
ご参加いただいた方の感想もぼつぼつツイッターやブログに出ているようだし、柳本自身も「俳句新空間」で少し触れているので、ここでは印象的な発言のいくつかをピックアップするにとどめたい。

「〈のりべん〉がぶちまけられて元に戻らないという感じって、定型詩の一回性というか、定型が一回詠われ始めらたら不可逆で元に戻れないという感じで、〈のりべん〉は定型と深い関係があるんじゃないかと思います」

「ある意味で覆面レスラー的なのは川柳。短歌は逆に〈顔〉が見えることによってその〈顔〉をうんぬんする文芸」

「俳句が挨拶の文芸なら、川柳はお別れの文芸、さよならの文芸なんじゃないかと思うんです」

「川柳には〈健やかな不健全さ〉〈不健全な強さ〉がある。いくつになっても不健全であることが許される文芸はあまりないのではないか」

「続けることを続けたいと思います。いろんなやり方で、ジャンルをクロスさせながら」

録音テープできちんと確かめていないし、文脈と切り離して引用すると誤解を生む危険もあるので、発表誌までの途中経過としてお読みいただきたい。
さて、第二部の大会での準特選句・特選句を紹介しておく。

「美」くんじろう選
準特選2 美りっ美りっ美りっ お言葉が裂けている  中西軒わ
準特選1 握りたくなる新品の鉄パイプ        八上桐子
特選  十七才と二ヶ月の右の耳        森田律子

(中西軒わの句は耳で聞いたときはよくわからなかったが、活字化するとおもしろさが際立ってくる。)

「力」中山奈々選
準特選2 これからは力になると冷奴         能登和子
準特選1 流水でほぐして使う力こぶ          徳長怜
特選 にんげんでいる力加減がわからない    岩田多佳子

(選者・中山奈々の軸吟「少年にパンイチの十万馬力」、「パンイチ」って何だろう?と思ったが、「パンツ一丁」ということらしい。鉄腕アトムだったのか。)

「和」松永千秋選
準特選2 天は天で飽和状態            内田真理子
準特選1 昭和からふっとんでくる金盥       石原ユキオ
特選 わたくしが和気藹々と減ってゆく      草地豊子

「気」丸山進選
準特選2 バス停は武士になる気で立っている      徳永怜
準特選1 気ぜわしく ひとりシェルター掘っている  久恒邦子
特選 大竹しのぶがその気になっている       谷口義

「白」石田柊馬選
準特選2 母よりも白き足なしサロンパス      樋口由紀子
準特選1 にじり口面倒な白になる         赤松ますみ
特選   ますます白くなってゆく暴力装置      小池正博

事前投句「大」樋口由紀子選
準特選2 おおぐま座待たせて呼び鈴の修理      兵頭全郎
準特選1 大きな西瓜抱えどこかへ消えた父      松永千秋
特選   水掻きがみんな大きい関係者        松永千秋

大会には伊那から「旬」の川合大祐・千春が参加していて、「旬」の最新号をいただいた。
「旬」は10年くらい前に読んでいたが、最近は見る機会がなかったので新鮮な感じがした。代表・丸山健三、編集・樹萄らきという体制である。

地を踏んでいるけど闇をふんでいる   大川博幸
秋…そう逃げるのはいかがなものか   樹萄らき
慈悲を持ちポチと名付けてしんぜよう  樹萄らき
少女革命、と最後に口にした啄木    柳本々々
うっかりと地球に酒を呑ませてた    千春

当日会場で配布されたものに「THANATOS 石部明 1/4」というフリーペーパーがある。
石部明の作品を10年ごとに四期に分けて紹介するシリーズの一回目。「石部明はどのような人物だろうか」「石部明はどのようにして石部明になったのか」の二本の短文は私が書いているが、50句の選定と印刷・発行は八上桐子による。初期の石部明について改めて振り返る契機になればありがたい。

記憶にはない少年がふいに来る  石部明

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