2014年12月5日金曜日

和漢連句を楽しむ会

11月30日に伊丹の柿衞文庫で「和漢連句を楽しむ会」が開催された。
「和漢連句」単独の実作会としては、平成ではおそらく初の出来事ではないだろうか。
ところで「和漢連句」とはどういうものだろうか。
連句は長句(五七五)と短句(七七)を交互に付けてゆくが、そこに和句だけではなく漢句(漢字五字の句)を混ぜてゆくのである。実物はあとでご紹介するが、この和漢連句の実作者は、現在ほとんどいない。その第一人者である赤田玖實子は、故・三好龍肝の和漢連句を継承している。赤田による「和漢聯句」の説明をまず紹介する。

「和漢聯句とは、中国の聯句(二人以上で句を連ね一首の詩を作る)と日本の連歌が結びついてできた連句文芸の一種で、和漢連歌、和漢連句の二種類がある。広い意味で、和漢聯句の名称は、これら和漢・漢和の連歌、俳諧を総称するものである」
この聯句形式は平安時代に一部の詩人に愛好され、鎌倉時代には長連歌の影響を受けた。和漢連歌の全盛期は室町時代で、五山の詩僧、公家、連歌師などによって大いに行なわれた。
「室町期以後の狂詩、俳諧の勃興に伴い、和漢連歌は和漢俳諧に形を変え、江戸時代を通じて一部人士の間で、引き続き作られてきたというが、各俳書に書かれている漢句の作り方は、どれもが漢詩を骨子にしており、儒者、漢学者、僧侶や武士といった人以外にとり、平仄の煩わしさが、連歌の世界ほどには作られなくなった、大きな要因ではなかったかと考えられる」(「和漢聯句 始まりとその変遷」)

さて、当日は京都大学・文学部教授の大谷雅夫氏の講演「芭蕉の和漢聯句について」があった。大谷氏の話によると、京大文学部の国文学研究室の隣には中国文学研究室があるが、両者の交流はなかった。それで共同研究をやろうということになって、選ばれたテーマが「和漢連句」だったということだ。その共同研究が表彰されることになって、伊賀上野における平成23年度芭蕉祭記念講演会で大谷さんが講演することになった。その講演を聞いていたひとりが赤田さんだった。講演のあと赤田は大谷に「和漢連句の実作者です」と名のった。大谷はそのときの驚きを「マンモスの研究者が生きて歩いているマンモスに不意に出会ったようなもの」と語っている。
大谷が最初に和漢連句の存在を知ったのは伊藤仁斎の日記からだった。
『仁斎日記』の天和三年五月二十五日に、伏見殿で和漢連句を巻いたことが出ている。
公家の伏見家に仁斎は弟や子(のちの東涯)、弟子たちを連れて訪れた。発句は

若竹のよよにたえぬや家の風

若竹の節々に絶えることなく伏見家の学問の伝統が続いてゆくという挨拶である。これに伏見家の子息(十七歳)が漢句を付けて応じている。
江戸時代の儒者や公家には和漢連句の心得があったことがわかる。伊藤仁斎は京都の儒者で『論語古義』などで知られる。京都堀川には彼の住居跡「古義堂」が残っているので、いつか訪れてみたいと思った。
さて、芭蕉には和漢連句が一つ残されている(和漢「破風口に」の巻)。そのオモテ六句を紹介する。

納涼の折々いひ捨たる和漢  月の前にしてみたしむ

破風口に日影やよはる夕涼  芭蕉
煮 茶 蠅 避 烟   素堂
合 歓 醒 馬 上    堂
かさなる小田の水落す也    蕉
月 代 見 金 気    堂
露 繁 添 玉 涎    堂

『奥の細道』の旅を終えたあと、芭蕉は伊賀上野・幻住庵・落柿舎などに滞在し、元禄四年冬に江戸に戻った。知友の山口素堂との交流から生まれたのが「破風口に」の巻である。
破風は屋根の高いところにある合掌形の二枚の板、または三角の部分をいう。発句は破風口にさす夏の陽光も薄らいできて、夕涼みの時間になったという挨拶である。素堂は脇句で、茶を煎ずる音を蝿の飛ぶ音にたとえて応じている。
講演のあとは五座に分かれて、和漢連句を巻いた。25人の参加者があったのは画期的なことだった。

当日は名古屋で「プロムナード現代短歌2014」が開催されていた。
第一部は、荻原裕幸の司会、パネラーに島田修三、佐藤文香、なかはられいこ。
短歌・俳句・川柳のジャンル論が話題に。
第二部は司会が斉藤斎藤、パネラーが加藤治郎、穂村弘、荻原裕幸。
短歌研究新人賞の石井僚一「父親のような雨に打たれて」のことなどが話題に上り、「虚構」の問題が論じられたらしい。
ブログやツイッターでレポートが出ているが、やはり実際に参加してみないと本当のことはわからない。

「老虎亭通信 イキテク」7号(松島正一)が届いた。
松島はブレイクの研究者で岩波文庫『ブレイク詩集』の訳者である。妻の松島アンズには『赤毛のアン』の翻訳があり、連句人としても有名。
年に一度の老虎亭連句会では日本語・英語同時進行の歌仙を巻いている。歌仙「曼珠紗華」の巻からウラの六句を紹介しよう。

ひめやかに東司に巣くう女郎雲     丁那
浄瑠璃人形腰をゆらりと      アンズ
豚を焼く煙に集う三百余        愛音
兜の緒締め山を駆け下り        渉
歳末のこんなときにもチェストいけ   雀羅
僕らの波を砕く寒月         丁那

A queen spider/silently weaving /in a zen temple toilet
Joruri puppet twisted / its waist so womanly
Pig roast / some three hundred people / around the smoke
Tightening the helmet / running down the mountain
What a nerve /on New Year’s Eve / he shouts charge!
The cold moon /shatters the wave we make

ジャンルを越え、言語を越え、文芸にはさまざまなコラボレーションがあるものだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿