2014年9月13日土曜日

『新現代川柳必携』(三省堂)

2001年に刊行された『現代川柳必携』の続編である。編者は田口麦彦。
例句はすべて入れ替えられ、5000句以上が収録されている。
アンソロジーとしても利用できて、現代川柳でどんな作品が書かれているのかを一望するのに便利である。

最初のテーマ「愛情」では「愛」「逢う」「君」「恋」などの例句が掲載されている

手も触れず桃の匂いをかぎ分ける   草地豊子
続編の月をふたりで見てしまう    澤野優美子
水牛の余波かきわけて逢いにゆく   小池正博
こいびとになってくださいますか吽  大西泰世
花びらを集めて風のトルネード    阪本高士

川柳でよく詠まれる「家族」。「兄」「弟」「姉」「妹」「親」「子」「父」「妻」などいろいろだ。

全集をそろえて兄の耳を噛む    清水かおり
連弾の姉とおとうと息合わず    木本朱夏
ばあさんに自衛の銃がある茶の間  滋野さち

川柳の句会・大会では動詞の兼題がよく出る。「急ぐ」「替える」「帰る」「覗く」「乗る」から。 

急がねば祇園精舎の鐘が鳴る       古谷恭一
チャンネルを替えると無口になった    湊圭史
正方形の家見て帰る女の子        樋口由紀子
父帰る多肉植物ぶらさげて        丸山進
裂け目から春を覗きに行ったきり     本多洋子
新型の飛行機雲に試乗せよ        高橋かづき

俳句と川柳の違いとして、季語論議がされることがあるが、本書では「季節」の項目が立てられていて、春夏秋冬、一月から十二月のほか「梅雨」「菜の花」「花冷え」「冬籠り」などが収録されている。季節を表す言葉も川柳の貴重な財産であり、俳句の季語とのニュアンスの違いを感じ取ることができる。

ファスナーの悲鳴は秋の季語ですか     丸山進
九月来る瞼のおりてくるように       八上桐子
十二月両手に残るものは何         森中恵美子

川柳の特質のひとつに批評性があるが、滋野さちはこの方面で独自の作句を続けているひとりだ。「戦争と平和」の項から。

青梅が落ちた 原発再稼働    滋野さち
殴られる前の自衛や春の雪
鉢巻をするとテロリストと呼ばれます

このように項目ごとに多様な川柳作品が収録されていて、広く目配りされたものになっている。「ササキサンを軽くあやしてから眠る」(榊陽子、杉野十佐一賞)「ふる里は戦争放棄した日本」(大久保眞澄、高田寄生木賞)などの受賞作品も見落とされていない。「震災」のテーマで200句収録されているのも、選者の見識をしめしている。現代川柳の全貌は川柳人にとっても捉えにくいものだから、本書は貴重な労作だと言えよう。項目別なので、設定された項目に当てはまる句が採用されており、それは必ずしもその川柳人の代表作とは限らないのだが、本書の性格からはやむを得ないことだろう。
巻末には編者・田口麦彦による「現代川柳のこころ」という文章が収録されている。これは昨年12月に「日本経済新聞」に連載されたもので、現代川柳を要領よく展望している。

あと、任意に印象に残った句を紹介しておく。

笹舟に揺れて東京駅に着く       重森恒雄
アドレスが変わりましたと埴輪から   いわさき楊子 
桃を突くまでは勝者のはずだった    いわさき楊子
ペルソナの中の塔みな海を向く     西田雅子
かもめ飛ぶ海辺とあの世とのあわい   悠とし子

高橋古啓の句に何句か出会ったのも懐かしいことだった。

撃たれた時の狐を見たか一行詩    高橋古啓
まぼろしか十三月へ翔ぶ兎

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